ラテンアメリカの政権地図
 


 ラ米の政権について通常用いられる区分には、左派、中道左派、中道、中道右派、右派の5通りある。2009年9年、パナマに新政権が発足した時点で、私の個人的な視点も加味すると、下記のようになる。
  • 左派:キューバ、ベネズエラ、ボリビア、エクアドル及びニカラグアの5ヵ国。人口及びGDPで全ラ米の1割。労働者保護と貧困対策を優先させる。社会主義を標榜し、エネルギー資源及びインフラ産業については公営を志向。金属、石油化学等の基幹産業に対しては国家が介入。エクアドルを除く左派政権4ヵ国は、ベネズエラのチャベス大統領が引っ張る形で「米州ボリーバル代替統合構想(ALBA)」に加盟している。モノ、サービスの相互援助を基本とした「人民通商協定TCP」が特徴で、ALBA銀行が創設された。その意味で貿易も国家が主導。
  • 中道左派:ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ、チリ、グァテマラ及びエルサルバドルの7ヵ国。全ラ米の人口及びGDPの半分を占める。労働者保護と貧困対策優先は左派政権に似るが、資源や基幹産業への国家介入の度合いは国により異なる。「南米市場共同体(メルコスル)」加盟4ヵ国は全て中道左派だ。
  • 中道:ペルー及びドミニカ共和国の2ヵ国。人口は全ラ米の7%、GDPで同4%程度。政見や歴史的役割などで一般的には中道左派と見られるが、現実の政策でそれをイメージするのは難しく、私の独断で敢えて中道、とした。
  • 中道右派: ホンジュラス。歴史的実績面では中道の範疇に入り、迷ったが、私自身、上記中道2ヵ国よりも右、とのイメージを抱いており、独断で中道右派とした。
  • 右派:メキシコ、コスタリカ、パナマ及びコロンビアの4ヵ国。人口及びGDPは、全ラ米の3分の1を占める。規制撤廃と公営企業の民営化で知られる新自由主義経済を志向し、メキシコは「北米自由貿易協定(NAFTA)」の一員だ。外交と経済面では米国と価値観を共有するが、内政面では国情に応じた独自施策を強調する。
 
中米とドミニカ共和国は、政権の区分がどうあれ、米国とは「米・中米・ドミニカ共和国自由貿易協定(CAFTA-DR)」を通じて経済的に一体化している。
 
 ラ米史を紐解くと米国が様々な形でラ米諸国に影響力を及ぼしてきたことが分かる(別掲の「ラ米と米国」を参照)。ラ米の政治経済のエリートに、米国で教育を受けた人も多い。軍制は、主として第二次世界大戦後、武器調達を含め殆どのラ米諸国が米国のそれと共通化した。経済的には、投資、信用供与、通商のいずれも、米国企業のプレゼンスは他を圧倒する。一方で、在米のラ米人及びその子孫(ヒスパニック)の数は、米国人口の15%以上だ。親米と反米の入り込んだ感情がラ米諸国の国民に見られるのは自然なことだろう。ラ米諸国の現実の政権地図を眺める際に、米国、という要素は重要だ。
 その中でメキシコと、歴史的に米国の裏庭と言われてきた中米・カリブ諸国(キューバを除く)は、どこも親米路線を敷く。経済政策も、NAFTAとCAFTA-DRにより米国との一体化が目立つ。コロンビア現政権の親米度の高さはよく知られる。
左派ないし中道左派諸国は、概して米国への対抗意識が強烈である。代表格がベネズエラ、ブラジル及びアルゼンチンだろう。米国が推進していた「米州自由貿易地域構想(FTAA)」への反発も強硬だった。前提となる新自由主義ないし市場主義経済がラ米の現実にそぐわない、という理由によるが、それだけではあるまい。だが、現実的な対米関係は一部を除き良好だ。特にオバマ政権発足後、かなり好転している。
 なお、特に注意したいのは、左派とか中道左派とか言っても革命を志向しているわけではない点だ。キューバを除くと複数政党制を採り、経済体制は資本主義が前提である。 
 
1 + 政権一覧
日付:
2009/05/27
2 + 左派政権
日付:
2009/05/28
3 + メキシコ及びCAFTA-DR諸国
日付:
2009/05/28
4 + アンデス諸国
日付:
2009/05/28
5 + メルコスル諸国
日付:
2009/06/04

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