ラ米諸国の対外・域内戦争


 スペイン系ラ米十八ヵ国の独立は殆どの場合流血革命だった。概ね副王軍に対する独立派軍による革命戦争の結果である。副王軍は文字通り副王(異なる管轄地域に配置された4人)旗下の軍で、職業軍人の多くはスペイン本国から派遣された。現地人でも昇進を重ね司令官まで上り詰める人もいた。兵士は概ね現地人志願兵で、独立革命期には徴募で増やされた。独立派軍にはボリーバルら革命家が武装して組織化したもので、現地の自警団らと共闘し、その後現地人志願兵も加わって大きくなった。後者には副王軍に徴募された兵士も多かった。特にアンデス諸国(ベネズエラ、コロンビア、エクアドル、ペルー、ボリビア、チリ)とキューバの戦争の激越さは記憶して良い。メキシコの場合は独立獲得には至らなかった当初の蜂起では、夥しい数の犠牲者を生んだ。従軍した兵士は復員後、国軍に入るか元の暮らしに戻る、という二つの選択肢に加え、大農園主や割拠するカウディーリョの私兵となる道があった。元副王軍兵士にも国軍入隊の道はあったようだが、ごく一部だろう。アルゼンチン、パラグアイ、中米、或いはスペインからの独立ではないウルグアイ、ドミニカ共和国では状況がやや異なるが、戦闘が繰り返され現地人の多くがそれらに参加したことでは同様だった。ともあれ、黎明期の独立国家の国民は、全体として気は荒かった筈だ。
 独立後成立した新興国は、一応は主として米国モデルの代表制民主主義を採った。しかし成立した政権の正統性を巡り(選挙不正と決め付けあい)、自由主義と保守主義の抗争に乗った形で反乱が、多くの国で相次いだ。その実は、カウディーリョ同士の権力抗争だった。戦争を経ずにポルトガル王室の皇太子が皇帝となり政権の正統性問題を起こさなかったブラジルでも、1830年代、各地で共和主義派らによる反乱が起きた。国内混乱は、域外国からの侵攻や隣国同士の武力紛争をも招きやすい。ブラジルとアルゼンチンとの戦争はイギリスの仲介で両国間に緩衝国家ウルグアイの建国を呼んだ。同国の内政に引き擦り込まれたパラグアイが同国とブラジル、及びアルゼンチンとの同盟との戦争により、国土を削り取られ人口を激減させた。メキシコは米国による戦争で国土の半分を喪失し、フランスの侵攻によってオーストリア皇帝の実弟による帝政を余儀なくされる事態を経験した。米国の傭兵隊長がニカラグアで実権を取り、中米諸国の軍事行動によって追放される事件も起きた。ペルーとボリビアは二度にわたりチリとの戦争に敗れ、ボリビアが太平洋への出口を失い内陸国となった。
 
 国によって時間差はあるが、域内外に拘わらず対外戦争が無くなったのは1880年代だ。この頃より各国は主としてドイツ、フランスから軍事顧問団を招聘し、軍制の近代化に向っていく。反政府勢力による武力蜂起は各地に起きた。二十世紀に入るとメキシコで大規模な武力革命が起きた。それでもラ米全体としてみればカウディーリョや軍人が国政の前面からやや引いた時代になった。資源開発が進み、輸出経済興隆と社会安定期に入った。自由主義経済が採りいれられて、中米におけるバナナ・リパブリック形成など、先進国企業の資本がラ米に押し寄せた。インフラ部門や金属・エネルギー資源も同様だ。ナショナリズムが高まるのは自然の成り行きだ。また政治体制から排除された若手将校が蜂起する事件も起きた。
 
大恐慌期の1930年代、多くの国でクーデターが起き、軍部が国政の前面に出るようになった。30年代にはボリビアとパラグアイが、40年代にはペルーとエクアドルが戦争を起こした。
 第二次世界大戦後、ラ米諸国の軍制は米国主導で米州全体の安全保障体制に組み込まれる。東西冷戦時代にあって軍部に反共思想が強まった。その中で50年代にボリビアとキューバで革命が成立した。60年代に軍政時代を迎え、70年代にはメキシコ、コスタリカ、コロンビア、ベネズエラ、ドミニカ共和国を除けば、どこも軍人が最高権力者だった、或いは軍部が国政を担う軍政下にあった。軍が左翼ゲリラ制圧を図るゲリラ戦争が各地で展開された(別掲「ラ米の軍部―軍政時代を経て」参照)。そして80年代、軍政下のアルゼンチンがイギリスに戦争を挑んだ。またニカラグア革命の後に同国の革命政権に対する右派勢力の、グァテマラとエルサルバドルの軍人政権に対する左翼統一ゲリラの内戦が起きた。
 1980年代、軍政諸国は民政移管を進める。経済的には、ラ米は債務危機による失われた十年を経験する。そして90年代には地域経済統合が進み、市場主義経済が主流となった。
 
 この項ではラ米諸国が関った重要な対外戦争と内戦を、その背景と共にみていく。
1 + 独立黎明期(1820-50年代)の国家間戦争
日付:
2008/07/03
2 + 十九世紀後半の戦争
日付:
2008/07/04
3 + 二十世紀の国家間戦争
日付:
2008/07/03
4 + 二十世紀の内戦
日付:
2008/07/03

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