ラ米の人種混交


 我々がイメージする「ラテンアメリカ」とは、「アングロアメリカ」では少ない人種混交、ではなかろうか。The World FactBookから判断出来る2008年のラ米の混血は2.7億人で、概ね総人口の半分に相当する。白人と先住民の混血をメスティソMestizo)、白人と黒人との混血をムラートMulato)、先住民と黒人の混血をサンボZambo)などと呼ぶが、実際にはメスティソ同士、ムラート同士、サンボ同士、白人や先住民、或いは黒人とメスティソ、ムラート、との混血と、非常に多様な人種混交が行われている。先住民、白人、黒人として前述した多くも、実は純血と言い切れないようだ。

前記アメリカ博物館は180年前の人種構成(キューバとドミニカ共和国を除く)も、白人、先住民、黒人、及び混血という別け方で表し、合計520万人とした。全体の4分の1という見当で、先住民を3割以上下回り、白人を4割近く上回り、黒人の2倍以上となっている。それから180年後の今日、対白人ではさほど変っていないが、対先住民では5倍近くに、対黒人では13倍になった。しかしこれも、地域的には大きな差異が見られる。 

(1)先住民と白人

スペイン植民地では、前述したように白人社会と先住民社会が、制度上切り離されていたが、メスティソは生まれた。下記を指摘しておきたい。

  1. 一般的に先住民区域には彼ら独自の共同体に加えて、彼らが労働力を提供する白人や教会の大農園(アシエンダ)が存在。大農園主(アセンダード)の白人代理者は遠隔地であれば常駐したし、教会には白人神父らも居住した。
  2. 白人社会República de los Españoles)には、先住民支配階層も混在。一部ではお互いに親戚関係を求めた。白人家庭の家事手伝いに雇われる先住民婦人もいた。また新世界への移住者の大半が男性だった。
  3. 鉱山都市では白人と先住民が混在した。

メスティソは、白人の父親の社会的地位、先住民の母親の社会的地位、嫡出か私生児かなどで、立場や経済的環境が天と地ほども違った。ただ、スペイン語と先住民の言語が話せる人が多かった。嫡出の場合は白人社会に居住し、父親の庇護を受けた。感覚的には白人であり、母親を介して先住民社会(República de los Índios)への同化も進む。私生児の多くは母親とともに先住民社会に居住したが、貢納や賦役の義務が無いため、浮き上がった存在となる。白人所有の農園などに雇用され、或いは都市に出て下働きに就いた。底辺にあって貧しいなりに、やはり白人社会文化に同化していく。独立革命は、参戦し、英雄になっていくメスティソが輩出した。大統領になったメスティソも多い。
 この180年間、メキシコではメスティソ人口が35倍増えた。一方ペルー、ボリビアは12倍。白人と先住民が前者は8-9倍増、後者は9-10倍、つまり混交率は前者のほうが確かに高い。個別の伸び率は不明だが、混効率は、パラグアイとエルサルバドル及びホンジュラスがメキシコ以上に高く、感覚的にはグァテマラがボリビア並みに低い。

(2)黒人と白人

スペイン植民地では黒人は白人社会República de los Españoles)に属した。従ってムラートが生まれることは自然の流れでもあった。だが先住民ほどの混交率には至らなかったのではあるまいか。スペイン植民地の倍以上の奴隷を輸入したブラジルでは、180年前、ムラートの数は黒人の3分の1で、白人数を15%ほど下回っていた。メスティソが白人を上回っていたスペイン植民地に比べ、混交率は低かったといえる。先住民とは異なり奴隷身分が多かったこともあろう。奴隷輸入の大半が1791年以降、というキューバはもっと低かったと思われる。
 ブラジルではこの180年間に100倍にまで増えた計算だ。キューバでも同様ではなかろうか。奴隷解放前のキューバの第一次独立戦争でも、多くのムラートが参戦し、英雄が生まれた。ムラート人口がブラジルの次に多いドミニカ共和国は、地続きのハイチからの黒人が建国時に大勢移り、且つ始めから奴隷制度もなかったことが特徴的だ。それに次ぐのはコロンビアだが、感覚的には実数はベネズエラの方が多い。 

スペイン植民地では白人社会に属する、とは言え、白人同様、黒人も先住民と交わる機会は多く、サンボが生まれた。コロンビア、ベネズエラ及びエクアドルに多い。またニカラグアを中心とした中米カリブ沿岸一帯のガリフナ(Garifunaアラワク系先住民と黒人との混血)も知っておきたい。多くの黒人奴隷が入ったメキシコやペルーにもサンボは多い。

(3)地域的多様性  

ラ米は、本項冒頭に述べたように、様々な混交を経た多様な人種の坩堝だ。広大で、地勢も天候も多様なだけに、人種構成にも地域的多様性がある。

  • メスティソが多数派のメキシコ・エルサルバドル・ホンジュラスは、アステカとマヤとスペイン文明が宥和し、先住民に独自性を持たせている度合いは、グァテマラやボリビア、ペルーより少ない。
  • パラグアイは感覚的にはメスティソ社会というより白人社会に近い。さらに白人社会といえるのがチリだ。
  • キューバとドミニカ共和国は明らかなムラート社会を構成するが、実は白人が多数派を占めるブラジルも似ている。明らかに白人国のアルゼンチン、ウルグアイ及びコスタリカとは異なる。
  • 中米南部から南米北部にかけて、白人、黒人、先住民が様々な組合せで織り成す、非常に豊かな混交社会が展開している。




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