ラテンアメリカの政権地図 本文へジャンプ

一国の政権について通常用いられる区分には、国際的にみて左派、中道左派、中道、中道右派、右派の5通りある。19992月にベネズエラでチャベス政権が発足するまで、ラテンアメリカ十九ヵ国で左派はキューバのみ、中道左派はチリだけだった。それも後者は新自由主義経済を志向し、且つ親米政権だった。

ラ米のいわゆる左傾化が本格化したのは、ブラジルとアルゼンチンに夫々、ルラ及びキルチネル両政権が発足した2003年のことだ。20146月、コロンビアの大統領選決戦投票が終わった時点で、私の個人的な視点も加味すると、下記のように5通りに分類できよう。

茶色字表記する地域統合体については別掲ラ米の地域統合を参照願いたい。

政治姿勢

現状

@

左派
5ヵ国

キューバ
ベネズエラ
ボリビア
エクアドル
ニカラグア

  • 人口及びGDPで全ラ米の1
  • 労働者保護と貧困対策を優先させる
  • 社会主義を標榜、エネルギー資源及びインフラ産業については公営志向。金属、石油化学等の基幹産業にも国家が介入
  • 「米州ボリーバル同盟(ALBAに加盟
    モノ、サービスの相互援助を基本とした
    「人民通商協定TCP」が特徴で、その意味で貿易も国家が主導

A 

中道左派 6ヵ国

ブラジル、
アルゼンチン、ウルグアイ、
ペルー、
エルサルバドルチリ

  • ラ米人口及びGDPの半分を占める
  • ブラジル、アルゼンチン及びウルグアイは「南米市場共同体(メルコスル)」原加盟国で、労働者保護と貧困対策優先で左派政権に似るが、資源、基幹産業への国家介入度は低い
  • ペルー及びチリはFTAで米国と繋がり、また「太平洋同盟」に加盟
  • エルサルバドルは「米国・中米・ドミニカ共和国自由貿易協定(CAFTA-DR)」加盟

B 

中道
1ヵ国

ドミニカ共和国

人口及びGDPは全ラ米の1%内外
政権党は政見や歴史的役割などで一般的に中道左派と見られるが、敢えて中道とした。

C

中道右派2ヵ国

 

メキシコ、
コスタリカ

  • 人口及びGDPは二カ国でラ米の2割前後
  • メキシコはラ米で唯一、「北米自由貿易協定(NAFTA)」に加盟
  • メキシコ与党は2000年までは71年間に亘り国政を担ってきた。コスタリカ与党は2000年に創設され、初めての政権
  • メキシコは「太平洋同盟」原加盟国。コスタリカも加盟申請中

D

右派
5ヵ国

グァテマラ
ホンジュラス、パナマ、
コロンビア、
パラグアイ

  • 人口は全ラ米比の13%。GDP7
  • 外交と経済面で米国と価値観を共有するが 内政面では国情に応じた独自施策強調
  • パラグアイを除き、米国とCAFTA-DR乃至FTAで繋がる。

米国との関係(別掲ラ米と米国を参照)を切り口に述べると;

@

ラ米の政治経済のエリートに、米国で教育を受けた人は今も多い。

A

軍制:主として第二次世界大戦後、武器調達を含め殆どのラ米諸国が米国と共通化。近年一部左派系政権下の国で武器調達の多様化を進めている。

B

経済:投資、信用供与、通商いずれも、国によって程度に差があっても、米国企業のプレゼンスは他を圧倒

C

在米のラ米人及びその子孫(ヒスパニック)の数は、米国人口の約15%

ラ米諸国の現実の政権地図を眺める際に、米国、という要素は重要だ。親米と反米の入り込んだ感情がラ米諸国の国民に見られるのは自然なことだろう。

1)    メキシコ、及び、歴史的に米国の裏庭と言われてきた中米・カリブ(キューバを除く。CAFTA-DR加盟諸国とパナマ)は、政権がどうあれ、経済政策面では米国との一体化を進める。

2)    南米でも10ヵ国中3ヵ国が対米FTAを結ぶ。この3ヵ国全てが、メキシコ
NAFTAで米国と繋がる)と「太平洋同盟」を構成している。

3)    左派のベネズエラと中道左派のブラジル及びアルゼンチンは、米国が推進していた「米州自由貿易地域(FTAA)」構想を挫折させた。新自由主義ないし市場主義経済がラ米の現実にそぐわない、という理由によるが、それだけではあるまい。なお、ラ米諸国は反米から親米に至る全てが、米国の対キューバ制裁を揃って非難する。 


 目次
政権一覧表   ラ米諸国の選挙制度 ラ米諸国の政党模様 
左派政権の国々    メキシコ・中米・カリブ  アンデス諸国 メルコスル諸国