夜男爵の部屋
バロン・ナイトのゲストルーム
夜そのもののために夜を溺愛するというのが、私の友の気まぐれな好み(というより他に何と言えよう?)であった。そしてこの奇癖(ビザルリー)にも、他のすべての彼の癖と同じく、私はいつの間にか陥って、全く放縦に彼の気違いじみたむら気な行いに身を委ねてしまった。漆黒の夜の女神はいつも我々と一緒に住んでいるというわけにはゆかない。が、我々は彼女を模造することができた。ほのぼのと夜が明けかかると、我々はその古い建物の重々しい鎧戸をみんな閉めてしまい、強い香をつけた、ただ実に微かな不気味な光を放つだけの二本の蝋燭をともす。その光で二人は読んだり、書いたり、話したりして――夢想に耽り、時計がほんとうの暗黒の来たことを知らせるまでそうしている。それから相携えて街へ出かけ、昼間の話を続けたり、夜更けまで遠く歩き廻ったりして、その繁華な都会の奇(く)しき光と影との間に、静かな観察の与えうる無限の精神的興奮を求めるのであった。 ―― E・A・ポオ「モルグ街の殺人事件」より(佐々木直次郎訳) テーマ曲:Vivaldi:La note (The night) リコーダ協奏曲<夜> You Tube |
ようこそ、余が暗闇のゲストルームに彷徨い入られた方々。夜を溺愛する方のみ、この先の扉を開かれるがよろしい。各晩ひとりの夜の友を余が客人として招き、歓談し、一篇の作品を置き土産にしてもらう趣向にてござる。いわばサロン・ウラノボルグの裏サイトでござるが、あくまでも文学サイトである点に変わりなきことを承知おかれたい。(B.N) |