ラ米諸国の軍事力 |
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軍事力の実態を示すのは、ミリタリー・バランスに依ることが多い。これに沿って兵員数、義務兵役の有無、軍事予算、の順で、兵員数から見た十大国を下記する(革命政府のキューバと軍政時代に軍政を経験した諸国は赤字で表わす)。
目立つのがブラジルの国防費の大きさだ。他と比べると兵員一人当たりの数字が飛び抜けて高いが、予備役を含めると実際の兵員はこの数倍にもなるのだろう。米国との対等関係を唱える国是、国境線の圧倒的長大さ、理由は色々考えられる。だが、軍部が国政に介入することはなくなっている。軍政時代に民政を通したメキシコ、コロンビア、ベネズエラが、兵員数でも軍事費でも二、三、四位に並ぶ。メキシコは、国防費で人口が半分以下のコロンビアよりも少なく、四分の一のベネズエラと同等だ。コロンビアが今日もなお、左翼ゲリラとの戦争状態にあることを裏付ける。一方で、ベネズエラのチャベス大統領は軍人出身で、北大西洋条約機構(NATO)に相当する地域防衛組織、南米条約機構(SATO)創設を提唱したことで知られる。人口当たりではコロンビア並みの兵員数を持つ。ペルーも兵員の絶対数でベネズエラに負けてはいないが、国防費は半分以下だ。 もう一つ重要なのが、国内民総生産(GDP)に対する軍事費の比率だ。これは米国CIAのWorld FactBookで現在は2005、06年の数字で出している。 @
キューバ:3.8%。中国(4.3%)、米国(4.1%)、ロシア(3.9%)並み 半世紀にも亘り米国の制裁を受け続けている共産党一党独裁国キューバは、GDPをベースにすれば世界の軍事強国並みに国防費に注ぎ込んでいる。コロンビアの数字が、かかる特殊事情を持つキューバに近いことは注目してよい。ピノチェト軍政時代に3千人を超える犠牲者を出したチリは、ブラジル同様、ヨーロッパでも比較強国であるに英仏に合わせた水準だ。アルゼンチンはフランコ後、ヨーロッパの普通の国になった旧宗主国、スペインに合わせた水準と言えよう。3万人とも言われる「行方不明者」を出す「汚い戦争」で厳しい国際的批判を浴びた国だが、少なくとも国防費のGDP比では普通の国である。兵員数も、国の人口比ではコロンビア、ベネズエラ、チリ、ペルーの、概ね三分の一の水準だ。そのベネズエラも、GDP比ではアルゼンチンと同じ、だから普通の国かと言えば、国の人口に占める兵員数は3倍になる(但し、08年の推定)。ミリタリー・バランスの適用年とWorld FactBookのそれには2,3年のタイムラグがあり、特にコロンビアとの関係緊張が高まりつつある08年以降について言えば、状況変化も有り得る。 上述通り、世界平均ではGDP比2%である。丁度この半分1%なのがパラグアイだ。これに続くのは日本と同じ0.8%のドミニカ共和国で、メキシコ及び下記中米4ヵ国は日本よりずっと低い0.4%(グァテマラ)〜0.6%(ホンジュラス、ニカラグア)、域内大国のメキシコ、及び領域面では中米最小国のエルサルバドルは0.5%である。 「中米危機」(別掲「軍政時代とゲリラ戦争」ゲリラ戦争参照)まで殆どの大統領は軍人だった中米諸国の現状は、かくの通りである。上記に挙げていないが、パナマは1989年末の米軍侵攻時、最高指導者だったノリエガ司令官が米国に移送された後、国軍が廃止され警察を中心とした国家保安隊に改編された。その陣容は1.2万人で、1.6億j(06年)の予算が付けられている。また49年に平和憲法を制定したコスタリカは、常備軍こそ持っていないが、防衛・国内治安に1.3億j(08年)の予算が充てられている。
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