メルコスル諸国の政権


南米南部共同体(メルコスル)原加盟国は、ブラジル、アルゼンチン、パラグアイ及びウルグアイの四ヵ国だ。World FactBookによる人口(25,500万。20127月に正式加盟したベネズエラを入れると28,260万。2011年見通し)でラ米全体の44%(ベネズエラを含むと49%)、GDP24,330億j。同、27,180億j。2010年見通し)で、52%(同58%)を占める。ラ米随一で世界的にも有数の経済大国であるブラジル一ヵ国がその83%(同74%)を担う。ここでは左派政権で述べたベネズエラを除く、原加盟4カ国について記す。
 政治体制面ではブラジルとアルゼンチンは米国同様に大統領任期4年で一度だけ連続再選を認め、他2ヵ国はいずれも任期5年ながら、ウルグアイは非連続再選を認め、パラグアイは認めない。ブラジルとアルゼンチンでは多党化が進み、前者の場合、政権与党は連立を強いられる。また政権区分は、パラグアイ(右派)を除く3カ国が中道左派に位置づけできる。

表1

国名

状況

@

ブラジル

現政権与党は労働者党(PTと、軍政時代(1964-85)の公認野党の流れを引くブラジル民主運動党(PMDBを中心とした連立。最大野党がブラジル社会民主党(PSDB)。購買力で見たGDPは世界第7位でも、一人当たり12,000j

A

アルゼンチン

十九世紀末創設の急進党と、二十世紀央創設のペロン党は、いずれもイデオロギーが左右幅広く、且つ離合集散を繰り返してきた。現政権与党は後者の左派(「勝利戦線FpV派)」。GDPはラ米第三位で、同18,200jはチリに次ぐ第二位

B

ウルグアイ

2005年に現与党の「拡大戦線」政権が発足するまで十九世紀央創設のコロラドブランコ(国民党)二大伝統的政党が、政権交代を繰り返してきた。この国は、大統領権限を制限する複数行政制度の実験でも知られる。南米最小だが域内富裕国。同15,800j

C

パラグアイ

十九世紀末よりコロラド自由党二大政党並立。前者は2008年まで62年間の政権を担い、2013年に復帰。後者が分裂して創設された真性急進自由党(PLRA)を中核とする政権が、その間の政権を担っている。同6,100j

(1)労働界カリスマから行政府トップへの政権移行−ブラジル

ラ米の中で国土面積が四割強、人口とGDPで三割強を占める国、ブラジル。BRICsの一つとして国際的存在感を高め、日本に先駆けて国連安保常任理事国入りを果たすのではないか、と囁かれる。中型航空機メーカーや金属資源会社など世界最大級の企業の動向も注目されてきた。1930年から45年まで最高指導者を務めたヴァルガス(下記アルゼンチンのペロン共々、別掲ラ米のポピュリスト参照)が工業国への道筋を着けた。

 ブラジル史上最初の女性大統領(ラ米全体では6人目)のルセフ氏は、「鉄の女」の異名がある。軍政時代にゲリラ組織の中で活動した経験から、ゲリラ出身大統領の一人に数えられることもある。最近では米国の安全保障局(NSA)による盗聴問題で対米嫌悪感を強めている。選挙を経た政治家としての実績が全く無いまま、大統領選に初出馬し、そして当選した。それまでは、ルラ政権下で大統領府長官を務めていた。州政府や中央政府で行政官のトップを歴任してきた行政手腕が買われたものだ。国民支持率は高水準で推移していたが、2013年央に起きた国民抗議デモ以降、下がり気味だ。ただ201410月の総選挙では連続再選が確実視される。
 そのルラ前大統領は、軍政時代から金属労連のリーダーとして積極的な活動を行い、労働条件向上を追求してきた、文字通り労働界のカリスマ的存在で、自らPTを結成し、1989年から連続3回に亘り大統領選挙に出馬、2002年に、当時では世界でも珍しい労組出身の大統領となり、前任者でPSDBのカルドーゾ氏に続き、ブラジル史上二人目の連続再選を果たした。対米同列を信条として、FTAA構想に対抗した。脱IMFを宣言、新規融資は受けず、既存債務残については期前返済も断行した。所得再分配や雇用機会の創出を重要な政治課題とし、市場主義経済路線に反発、「ボルサ・ファミリア」と呼ばれる現金給付などの貧困対策の一方、確かな経済成長と実績を積み重ねた。退陣時の国民支持率は80%を超えていた。
 ルセフ氏は、そのPTから出た彼女の政権は中道左派に位置付けるのが当然だろうが、PT に次ぐ議会第二党で中道右派のPMDBなど8党と連立を組む。多党化が進むブラジルで、次期政権では如何なる構成になるだろうか。

(2)ペロン党左派の政権−アルゼンチン

南米のヨーロッパ、を自負するラ米随一の白人国家だが、1930年から82年までの半世紀で軍事クーデターが6回起き、軍政の通算期間が事実上25年間にも及んだ。とりわけ第二次長期軍政(1976-82年。第一次は1966-73年)は、3万人以上とされる行方不明者を出したことで、悪名高い。民政期では、1946年以降、ペロン党(正式名称は「正義党(PJ)」)と、創設は半世紀遡れる急進党(UCR)が二大政党として政権を争って来た。党名にも残る歴史上の人物、ペロンも軍人出身ながら、軍事クーデターで追放されている。世界でも先進国の一角にあったアルゼンチンが、政治経済的にゆっくりと凋落してきた背景として覚えておきたい。

 ラ米で四人目の民選女性大統領であるフェルナンデス氏は、201010月に死去した故キルチネル前大統領(在任2003-07年)の夫人だ。法律家出身で、州議会、連邦議会と議員を務めたプロの政治家で、夫とは、ペロン党に属する、言わば同志だ。彼の生前に選挙で大統領になった。アルゼンチンで二人目の女性大統領とは言え、初代のイサベル・マルティネス元大統領がペロン夫人で大統領だった彼の死後、副大統領(当時は大統領が任命)から昇格したのとは、同列には置けまい。
 キルチネルは、党内に「勝利戦線(FpV)」(以下FpV)を結成し大統領選に出馬、同党右派のメネム元大統領(在任1989-99)と争い、後者の決選投票進出辞退で大統領になった人だ。就任後、ブラジルのルラ氏同様、経済への政府関与、IMFへの期前返済、雇用創出、貧困対策などを進めると共に経済不況を克服したことで、存在感が非常に高まった。だが、憲法上許される連続再選ではなく、FpV候補を妻に譲った。彼女は、UCR分派から副大統領候補を立て、決選投票を待たずに当選した。食糧輸出税法案を巡る暴力事件や与党内反対で政情混乱を招き、大統領不服従の中央銀行前総裁解任についての司法当局の違法判断など、厳しい政権運営を余儀なくされてきたが、夫の死後、国民支持率が上昇、1110月の総選挙で決選投票無しの連続再選を果たす。

 第二期目ではスペイン企業からの石油会社経営権剥奪や、リスケに応じなかった米国投資会社による米国での訴訟、彼女自身の健康問題などを抱えながら政権を運営している。また、言動には左傾化が目立つ。一方、この国の議会は、任期4年の下院は2年毎に半数ずつ、同6年の上院は2年毎に3分の1ずつを改選する。政治構造的にはペロン党と急進党の分裂や地方政党の存在、ラ米では飛び抜けて多い政党数、などで極めて分かり難い。ただ現状、FpVを中心とするフェルナンデス派が議会過半数を占める。

(3)伝統政党政権からの脱却−ウルグアイパラグアイ

メルコスルの二小国は、一人当たりGDPで見るとウルグアイはアルゼンチンと同水準の域内富裕国だが、パラグアイは貧困国の一角を成す。政治的には、前者は二十世紀以降、ラ米ではチリに次いで民主主義が根付き、後者は政治不安と35年にも及ぶストロエスネル支配(1954-89年)で知られる。この両国の共通項としては、伝統的二大政党の存在、及び政党の少数集約だろう。

ウルグアイムヒカ大統領は、「拡大戦線」二代目だ。同戦線の最大勢力たる「トゥパマロス」に属する。1960年代に生まれた左翼ゲリラ組織で、彼も活動経験がある。この意味ではカストロ・キューバ、オルテガ・ニカラグア、サンチェスセレス・エルサルバドル各首脳と同様だ。ただ、政治思想はともかく政見は現実的だ。メルコスル協調を政策面での信条とする。最近ではマリフアナ合法化を実現し注目された。拡大戦線は議会で上下両院で過半数の議席を有し、高齢の彼を支える。

初代は、本来医者で社会党員のタバレバスケス前大統領で、201410月の大統領選に74歳で再出馬する。拡大戦線自体は1971年社会党、共産党、キリスト教民主党などにより結成された。彼は1994年選挙から毎回、そこから大統領選に出馬し三回目の2004年選挙で当選した。ブラジルのルラ前大統領に似ている。なお、十九世紀前半から国政を担ってきたコロラドブランコ(国民党)の二大政党は、二十世紀早々、民主的な政党に脱皮、政権交代を繰り返し、或いは大連合を行って世界有数の福祉国家を築き上げた。現世界貿易機構(WTO)の発祥となるウルグアイラウンドを主宰したのは、かかる伝統政党の政権である。

 パラグアイは、ラ米史上、実質的な独立が最も早かったが、独立後1870年までの59年間は僅か3人のカウディーリョが最高権力を行使した(別掲カウディーリョたち参照)。ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイを敵に回す「パラグアイ戦争」(1864-70年)で破局的敗戦を経験し(別掲ラ米の戦争と軍部ラ米確立期の戦争」参照)、その後コロラド党自由党の二大政党が生まれた。コロラド党を母体に35年間もの超長期政権を担っていたストロエスネル将軍(1912-2006)が1989年に追放されると、南米で唯一、大統領の多選自体が禁じられるようになる。コロラド党としてはその後も政権を担い続けた。

 2008年、キリスト教民主党及び幾つかの小党との連合で中道左派の「愛国同盟」から出たルゴ氏が、伝統政党だった自由党の流れを引く真性急進自由党(PLRA)と共に「変革のための愛国同盟」を結成、62年ぶりの与野党交代を成し遂げた。だが、任期を1年強残した20126月、議会により罷免された。PLRAも賛成に回り、その際に同党から出ていた副大統領のフランコ氏を暫定大統領に引き上げた。 

 かかる罷免手続きが非民主的、との理由で、メルコスル、及び南米諸国連合(Unasur)加盟国として資格停止を受けたが、2013年選挙で政権奪還を果たしたコロラド党のカルテス政権発足後、ほどなくして、これらへの復帰を成し遂げ、且つ、ルゴ政権下、批准を頑なに拒んでいた議会を説得、ベネズエラの加盟(全加盟国の批准を条件としていた)を、手続き上も実現させた。


 

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